食用のお米は、通常「炊く」ことで、ごはんとして食卓に並べられます。でも、日本酒を作るときのお米は「炊く」ことはしません。
日本酒を作る時のお米は、洗って吸水させたお米を甑(こしき)という大型のせいろと窯を使って「蒸す」という作業を行います。
精米されたお米は、「洗米」(お米を洗う)、「浸漬」(お米を水に浸ける)という工程を経て、お米を蒸して「蒸し米」を作る工程に入ります。
なぜ日本酒を作る時のお米は蒸すのか
お米を蒸し米にする目的は、お米のでんぷんを生のでんぷんの状態からα型と呼ばれる状態に変化させて、発酵が起こりやすい状態にすることです。
また、高温でお米を殺菌する目的もあります。
精米したお米は、3〜4週間ほど倉庫で寝かせる「枯らし」という工程を行います。
精米歩合50%(お米を半分削る)であれば、およそ45時間もの時間がかかります。お米はその間に摩擦熱をもって、カラカラに乾いた状態になってしまいます。
「枯らし」には、精米した時の摩擦熱を持ったお米を冷やすことと、精米によって乾燥したお米を程よく吸湿させる、という二つの目的があります。
そして、「枯らし」を行った後のお米は、残っている糠(ぬか)を取り除くための水洗いを行います。
その後、「蒸す」工程に入ります。
蒸し米の理想は「外硬内柔」
お米を炊くと餅のような状態で粘りが強いため、お米同士がくっついてた状態になってしまいます。
そのため、麹を作る際に麹菌が繁殖できるお米の表面積が狭くなります。
蒸し米の理想は、「外硬内柔」と言われています。外側はある程度硬く、中心部は柔らかく水分が保たれている状態のことです。
蒸したお米であれば米粒があまりくっつかないので、お米の表面積が狭くならない状態でお米に水を吸わせることができます。
炊いたお米の水分は約65%、蒸したお米は約35%です。麹菌の繁殖に最も適した水分量は35%から40%と言われており、この点からもお米は蒸した方が麹菌の酵素がデンプンを分解しやすくなるという利点があります。
蒸す時間は日本酒の香りや味わい大きく影響するため、お米の状態を見ながら繊細に調整されます。
蒸し米を作るときに使う道具
お米を蒸すときには甑(こしき)と窯(かま)という道具を使います。
参考:灘酒研究会
最近では、甑(こしき)と窯のかわりに、「連続蒸米機」と呼ばれるお米を蒸すベルトコンベア式の機械もあります 。
蒸し終わったお米は100℃近い温度になっていて、また水をしっかりと含んでいるため重くなっています。これを木のスコップですくいだすというのは、暑さと戦いながらの重労働となります。
連続蒸米機は、これらの重労働を軽減することができますが、甑(こしき)を使用した方が良い蒸し米に仕上がるそうです。
そのため、仕込み用のお米には「連続蒸米機」を使用しても、吟醸酒を作るために別に甑で蒸した米を使ったりする場合も多いそうです。
蒸した米はすぐに冷却される
甑(こしき)で米を 蒸す場合にかかる時間は、45分から1時間です。蒸し米の作業は明け方から早朝に行われます 。
蒸し終わった米は、甑から取り出され、すぐに冷やされます。
放冷機と呼ばれる機械を使用されることが多いですが、寒い地方では床に広げて自然の冷たい空気で冷やすこともあるそうです。
蒸し米は麹に使われるものと仕込みに使われるもの(掛け米)に分けられます。
目標の温度まで冷やされた蒸し米は、使用の目的に応じて麹室、酒母室、タンクなどに送られます。
洗米も吸水も秒単位で行われる
お米を蒸す前には炊くときと同様に、お米を洗って給水させるという工程を行います。洗い終えたお米は水につけて、芯まで適度に水を吸収させます。このとき、お米が水を吸いすぎると蒸した時は柔らかくなりすぎて麹作りがうまくいきません。
麹米用の蒸し米は、お米を洗う作業も、お米を水につけて給水させる作業も、秒単位の正確な時間で行われる繊細な作業が必要になります。
お米の品種や精米歩合当日の気候や水温の違い、お米の乾燥具合なので吸水時間は細かく調整されます。
特に、吟醸酒用のお米は細かく削られている( 磨かれている)ため、数秒の違いで水分含有率が違ってしまうため、ストップウォッチを使うなどして正確に作業を行う必要があるのです。
お米は予定の時間水につけた後、水を切ります。その後、お米の内部の水分量を均一にするために、一晩程度「枯らし」の作業を行います。
通常は、前日の午後に米を洗って水につけ、一晩かけて水を切り、翌朝に蒸すという作業を繰り返していくことになります。
このような作業を行うことで造られた蒸米は、後の工程に出てくる麹(こうじ)、酒母(しゅぼ)、醪(もろみ)の3つをつくるために用いられます。
まとめ
・日本酒を作るときのお米は「炊く」のではなくて「蒸す」
・蒸し米の理想は「外硬内柔」
・蒸すだけでなく、洗米とお米に吸水させる作業も秒単位の精密さが必要