日本酒をつくる大切な工程の1つに酒母(しゅぼ)造りがあります。
酒母とは、麹で溶かしたお米のブドウ糖をアルコール発酵させる酵母(清酒酵母)を培養させたもののことです。
ここでは、酒母のつくり方の1つである菩提酛(ぼだいもと)についてお話ししていきたいと思います。
菩提酛を知ることは日本酒の起源の話にもつながっていく興味深いお話なんです。
酒母の種類
現在の日本で行われている日本酒造りでは主に、
・速醸酛
・生酛
・山廃(山卸廃止生酛)
の3つ方法で酒母(しゅぼ)が造られています。
90%以上が速醸酛で、9%ほどが山廃、生酛は1%(以下)とも言われています。
そして、現在ではさらにレアな酒母のつくり方が菩提酛なんです。
菩提酛とは
引用元:菩提山正暦寺 http://shoryakuji.jp/sake-birthplace.html
菩提酛とは、西暦1000年ごろ(平安時代中期)に誕生した酛(酒母)のつくり方です。
西暦1000年から1500年ごろ(室町時代末期)にかけて、奈良菩提山正暦寺(ならぼだいせんしょうりゃくじ)でつくられた「菩提泉(ぼだいせん)」というお酒がありました
この正暦寺から分けられた酒母を菩提酛と呼ばれていました。
質が非常に高かった正暦寺の酒造りの技術が奈良県内の寺院、そして日本全国に広がったことから、現在の日本酒(=清酒)の起源と言われています。
室町時代には、お寺でつくられた「僧坊酒」が広く飲まれていました。
お坊さんがお酒?というのはイメージが合わないかもしれませんが、当時の時代状況ではお寺がお酒づくりの拠点としてとても都合が良かったようです。
菩提酛でつくられた菩提泉もそんな「僧坊酒」の1種(というか起源)なんですね。
菩提酛のつくり方
①残暑の厳しい暑い日に笊籬(いかき)と呼ばれるザルに蒸したお米を入れる。
②少量の米麹を水に浸け、乳酸菌を繁殖させ「そやし水」をつくる。
③乳酸発酵水「そやし水」を材料と共に混ぜて酒母をつくる。
以上の工程が菩提酛のつくり方です。
高温で発酵が早く進むため、夏でも腐造(雑菌などの繁殖)が起こりづらいのが特徴です。
酒母をつくる際には、乳酸菌が生み出すの酸の力で雑菌や野生酵母などの繁殖を防ぐことが必要なのですが、現在の日本酒造りで主流になっている速醸酛は乳酸をあらかじめ添加して酒母をつくる方法で、生酛、山廃造りは酒母を造る際に酵母を培養させるのと同時に乳酸菌を培養させる方法です。
それに対して菩提酛は、酛(酒母)を仕込む水に天然の酵母を培養させた乳酸発酵液を使用することで酒母の酸性度を高める、というのが特徴になります。
現在飲める「菩提酛」のお酒
明治時代に現在の酒づくりの方法である速醸酛が開発されたこともあり、一時は完全に廃れたとも言われていました。
現在、通常商業ベースに乗っているお酒で菩提酛が使われていることはほとんどありませんが、菩提酛を現代まで伝えている、または復活させてお酒づくりに活かしている酒蔵もあります。
なら泉勇斉
なら泉勇斉は、奈良県酒造組合認定の、奈良のお酒専門店です。
平成8年にスタートした「奈良県菩提もとによる清酒製造研究会」によって、正暦寺の境内から日本酒製造に適した乳酸菌と酵母を探し出し菩提酛を復活させました。
平成10年に室町時代の銘酒である「菩提泉」を復活させて、現在も奈良県内の様々な酒蔵が菩提酛による日本酒を製造しています。
参考:菩提もと開発:なら泉勇斉
辻本店「御前酒」
岡山県真庭市勝山にある辻本店も、独自の菩提酛での日本酒造りを行っています。
参考:御前酒の酒造り:日本酒・岡山の地酒 御前酒蔵元 辻本店
辻本店は、最近日本酒ファンの中でも人気がある雄町米によるお酒づくりを行うのと共に、辻本店がつくっているお酒に適した製法として菩提酛を採用しています。
少量の米糀を水に浸けて乳酸菌を繁殖させ、乳酸が大量に生成されたころに加熱殺菌を行い仕込み水として使う、という独自の手法で、菩提酛造りによる日本酒を現代に活かしています。
雄町サミットと呼ばれる雄町でつくられた日本酒のみで行われるコンペで受賞した実績もあるなど、日本酒ファンから注目されている酒蔵です。
まとめ
・菩提酛は酒母(しゅぼ)を作る水に乳酸発酵した酸性の水を使用する手法
・菩提山正暦寺でつくられた「菩提泉」が日本酒の起源と言われている
日本酒の歴史の話になるかと思いきや、ごく少数ながら現代も日本酒造りに活かされている手法でもあることがわかりました。
1000年以上ある日本酒(=清酒)の歴史を感じながら、菩提酛のお酒を楽しんでみるのも面白いかもしれません。
個人的には、雄町米による日本酒造りに菩提酛を活用している辻本店のお酒がとても気になっています。
いつか機会があったらぜひ飲んでみたいと思います。