近所のスーパーマーケットには地酒のコーナーがあって、さまざまな銘柄の日本酒が置かれています。
酒屋さんにも「地酒」と書かれたのぼりや看板が掲げられているのを目にする機会があると思いますが、ところで、地酒ってどんなお酒なんでしょうか?
ここでは「地酒」について書いてみたいと思います。
地酒の定義
地酒は酒税法で定められた特定名称酒のような、法律で決められた定義はありません。
小学館の『デジタル大辞泉』で地酒ついて、
その地方でつくられる清酒。特に、灘(なだ)や伏見(ふしみ)を除いた地方のものをさす。
とあっさり簡単に書かれています。
菊正宗や白鶴のような大手の有名な酒蔵のお酒でも、造られているのは灘地方だけですし、同じく黄桜や月桂冠は伏見地方のみで造られている日本酒なので、それぞれ「灘の地酒」「伏見の地酒」でいいような気もします。
なのに、なぜわざわざ「灘や伏見を除く」と書かれているのか不思議に思うかもしれません。
その理由としては、日本酒の生産量1位が兵庫県、2位が京都府なので、「日本酒=灘と伏見」というイメージが強いことが影響しています。
大手の酒蔵が兵庫(灘)と京都(伏見)に集中していることに加え、戦後から昭和後期の日本酒の需要に生産量が追いついていなかった時代に、設備の機械化によって大量生産された灘と伏見の日本酒が全国に流通していたことが原因です。
その時代は、「地酒」と呼ばれる日本酒が全国に流通されて、気軽にスーパーマーケットなどで買えるお酒ではなかったのです。
昭和の地酒ブーム
昭和の終わりごろ、「地酒ブーム」が起こりました。
お酒が酔うために大量生産、大量消費されていた時代から、灘、伏見以外の地方の酒蔵で造られた、生産量が少なくその地方でしか飲まれていなかった日本酒である「地酒」に脚光が集まるようになりました。
1967年に雑誌『酒』の誌上で、新潟県の石本酒造が造った「越乃寒梅」が紹介されたことをきっかけに、地方の酒蔵が造った優れた日本酒が全国的に紹介されるようになったそうです。
これをきっかけに、地方の酒蔵も全国で流通させることを目指してお酒造りが行われるようになってきました。
参考:越乃寒梅について
90年代の吟醸酒ブーム
そして、1990年に現在の、「普通酒」と「特定名称酒」に分類する制度がはじまりました。
これによって、酒蔵だけでなく、この銘柄の「特別純米酒」「本醸造酒」「純米大吟醸酒」といった銘柄の違いでお酒選びの選択肢が細分化していきました。
この頃は、「淡麗辛口」の吟醸酒が好まれ、現在でも「淡麗辛口」で有名な新潟産の日本酒である「越乃寒梅」や「久保田」などに脚光が集まりました。
合成酒の甘い味わいに対して、新潟で研究を重ねて造られた日本酒の「淡麗辛口」の味わいが、日本酒の新しい魅力を人々に伝えることになったのだと思います。
ワインや焼酎がブームになって売上高を伸ばす中、日本酒は1973年をピークに右肩下がりに売上高を下げていました。
しかし、このような特定名称酒、中でも「純米吟醸酒」「純米大吟醸酒」のフルーティな香りは日本酒にイメージを変えて、女性にも受け入れられるようになってきました。
人気の獺祭も山口県産の「地酒」
現在、大人気になっている「獺祭」。
このお酒も山口県で造られているお酒なので、定義の上では山口県の地酒になります。
獺祭はカテゴリーとしては地酒かもしれませんが、海外で売ることも視野に入れたマーケティングでも注目されています。
流通や保管の技術が向上している現在は「地酒」だからといってその地方でしか飲めないものというわけではなく、日本中どころか全世界で楽しめるものになりつつあるのかもしれません。
獺祭の蔵元 旭酒造株式会社
獺祭を造っている旭酒造のホームページには「山口県の小さな酒蔵」と書かれていますが、英語、フランス語、中国語にも対応しています。
旭酒造は、本気で獺祭を世界的なブランドにすることを目指しているそうです。
参考:ターゲットは国内のみならず 「獺祭」の世界進出戦略の現実味
まとめ
「地酒」について簡単にまとめてみました。
和食が世界文化遺産に選ばれたこともあり、海外からの日本酒への関心が高まっています。
獺祭のように、日本だけでなく海外へ目を向けたマーケティングを展開する酒蔵が増えることで、より質の高い全国の「地酒」が楽しめる未来が訪れるといいなと思っています。