日本酒造りの重要な工程の1つに「ろ過」があります。
最近はろ過をしていないことが売りの「無濾過生原酒」という表示がされた日本酒もありますが、そもそも「ろ過」とはどのような工程なのでしょうか?
ここでは、日本酒の「ろ過」について解説していきます。
「ろ過すること」と「こすこと」は違う?
日常の言葉として使用される「ろ過」は、フィルターなどの道具を使用して液体を「こす」ことを指します。
しかし、日本酒造りにおいての「ろ過すること」と「こすこと」は違う意味でつかわれます。
日本酒を「こす」ことの意味
日本酒(清酒)の定義としては、法律で「米、米こうじ及び水を原料として発酵させて、濾したもの」と定められています。
参考:国税庁 酒税法における酒類の分類及び定義
https://www.nta.go.jp/taxes/sake/shiori-gaikyo/shiori/2018/pdf/006.pdf
つまり「こす」とは、発酵させた醪(もろみ)をお酒と酒粕に分ける「上層(じょうそう)」の工程のことを指しているわけですね。
「ろ過」とは?
日本酒造りにおいて「ろ過(=濾過)」という言葉を使用される時の意味は、炭素ろ過やフィルター型のろ過機によるろ過のことを指します。
「ろ過」を行うことによって、微生物や酵素を取り除くことで、輸送や貯蔵中に劣化しにくいお酒に仕上げることができます。
ろ過の工程
上槽によって絞られたお酒がどのようにろ過されるのか、ということについてお話しします。
①澱引き(おりびき)
搾ったばかりのお酒には、米粒の破片や酵母、麹菌の菌糸といった小さな浮遊物が残っていて白く濁っています。
これを数日間寝かせることで浮遊物を沈殿させることを「澱引き(おりびき)」といいます。
②ろ過
澱引き(おりびき)後の上澄みのお酒(原酒)にもまだ色が残っていて、また雑味成分も多く残っています。
これらをろ過機を通したり活性炭を使用するなどして除去する作業が「ろ過」と呼ばれる工程です。
活性炭でろ過をすると旨味成分も多く取り除かれてしまうので、吟醸酒などでは濾過器や、マイクロフィルターを通したのみのお酒が多いそうです。
・着色成分を取り除き、より無色透明に近い色にする
・雑味成分を取り除く
・老香(ひねか)と呼ばれる好ましくない臭いの成分を取り除く
という目的のために、ろ過は行われます。
無濾過とは
最近はラベルに「無濾過」と書かれたお酒が多く発売されていますが、これは「炭によるろ過をしていない」という意味でつかわれていることが多いそうです。
「無濾過」といわれたら全くろ過していないお酒なのかと思うかもしれませんがそうではなく、実際は活性炭を使用していないけどろ過機は使用している、という酒蔵が多いそうです。
ちなみに、活性炭もろ過機も全く通していないお酒を「完全無濾過」と呼ぶそうです。
なんか、ややこしいですね(笑)
無濾過のお酒の特徴
無濾過のお酒はややにごりがある黄色がかった色をしています。
無濾過のお酒は旨味や香りも取り除かれていないので、よりよりできたてに近い味わいを楽しめます
お酒本来の旨味や個性などが残り、お米の旨味が濃厚に感じられるお酒になります。ろ過されたさらりと飲みやすいお酒では物足りない、日本酒通が好む味わいになるそうです。
しかし、不純物や酵素の影響によって劣化しやすいという特徴もあるため、温度管理や光による劣化により気を付ける必要があるデリケートなお酒でもあります。
無濾過生原酒とは
無濾過生原酒とは、無濾過であると同時に、
・火入れ(加熱殺菌)をしない
・加水(水を入れてアルコール度数調整)をしない
という特徴を持つお酒です。
パンチがきいた濃い味の日本酒ですので、ますます通好みのお酒といえるかもしれませんね。
ろ過をしないことで不純物が多いのと同時に火入れ(加熱殺菌)も行っていないので、温度や振動、光などによる劣化にさらに慎重になる必要があります。
無濾過=良いお酒?
「無濾過」のお酒は濃い味と強い香りがあるため、根強いファンがいます。
しかし、日本酒酒本来の色と味わい、個性を楽しめますが、雑味も多いため日本酒に慣れていない人や、日本酒に苦手意識がある人にはあまり向かないお酒の可能性があります。
無色透明でスッキリとした飲み口の美味しいお酒もいっぱいありますし、無濾過の強い個性のお酒とどちらが良いかということは、単純に好みの問題といえます。
無濾過のような個性の強いお酒こそが良いお酒、というわけではないのです。
まとめ
以上、日本酒の「ろ過」についてのお話しでした
日本酒の初心者にとっては純米吟醸酒のような、スッキリとした飲み口、後味のお酒の方が飲みやすいと思います。
「無濾過」のお酒は日本酒に興味を持ったらぜひ試していただきたいと思っています。
上にも書きましたが、どちらが良いというものではありません。
自分が好きなお酒こそが最高のお酒です。