麹と酒母が完成すると、仕込みタンクに原料である(蒸し米、米麹、水)と酒母とを仕込んで醪(もろみ)造りに入ります。
日本酒の原料は4日にかけて、3回に分けて仕込まれます。これを三段仕込みと呼びます。
「三段仕込み」を行う理由
酒母には純粋培養した酵母が大量に含まれている他に、乳酸が加えられていて酸性度が高いため雑菌などの余分な微生物を寄せ付けない環境が整っています。
そこに一度に大量の原料を加えると、酵母と乳酸の濃度も薄まってしまいます。そうなると、酒母は雑菌に汚染され原料の腐敗につながってしまいます 。
そのため、発酵する様子を見ながら少しずつ原料を投入していく「三段仕込み」と呼ばれる方法で仕込みが行われるのです。
原料を何段階かに分けて仕込むいわゆる「段掛け」と呼ばれる方法は、室町時代末期には行われていたそうです。
当初の2段掛けから徐々に増えていって、5段掛けという方法まで現れたそうですが、江戸時代に三段仕込みと言う方法が確立して以降それが主流のやり方になりました。
参考:灘酒研究会 三段仕込・仕込
三段仕込みの工程
三段仕込みは通常4日にわたって行われます。
1日目・・1回目の仕込み「初添え」
2日目・・仕込みを1日休む「踊り」
3日目・・2回目の仕込み「仲添え」
4日目・・3回目の仕込み「留添え」
2回目の仕込みの時には1回目の倍の量の原料(蒸し米、麹、水)を投入し、3回目の時には1回目の約3倍の量、という感じで、少しずつ量を増やしながら原料を投入していきます。
仕込みが完了すると、酒母の約14~15倍の量の醪(もろみ)が出来上がります。
醪(もろみ)の泡は炭酸ガス
もろみを仕込んでいるタンクの中では、プツプツと泡が立っています、
酵母がアルコール発酵を行うとき、糖分(ブドウ糖=グルコース)をアルコールと二酸化炭素(炭酸ガス)に分解します。このときに発生する二酸化炭素がもろみの液体の表面を泡立たせています。
参考:灘酒研究会:醪
醪が発行している途中の仕込みタンクは炭酸ガスが充満していてほぼ無酸素状態です。
発酵の途中にもろみを混ぜる「櫂いれ」という作業を行ったりしますが、もしこの時に誤ってタンク内に転落してしまうと、窒息して命を落とす危険性があります。
また、麹室も密閉空間なので、麹作りの過程で酸欠事故が起こる可能性があります。そのため法律で酸欠防止の措置を取ることが義務づけられています。
もろみの泡は発酵の進み具合によって、筋泡、水泡(石鹸泡)、岩泡、高泡、落ち泡、玉泡、地と変わります。
参考:灘酒研究会 泡
伝統的な酒造りの手法では、この泡の様子を見ることで発酵の様子を観察していたそうです。
泡なし酵母
醪(もろみ)が発酵する際の泡(特に”高泡”)は、タンク容量の半分ぐらいに仕込んだもろみから、泡が溢れ出すくらいの大量に発生します。
もし泡が溢れるとその分が無駄になるというだけでなく、酵母が泡に付着しているため泡と共に酵母が溢れてしまったり、酵母が泡に付着したままになったりして発酵が弱まってしまいます。そのため泡を消すための当番が(泡番)が必要でした。
このように、泡を抑えるというのはとても大変な作業だったのですが、現在は高泡の出ない酵母が普及していて、多くの蔵元では泡番(泡を見守る役割)の必要がなくなっています。
このような高泡が出ない酵母が「泡なし酵母」です。
泡を出さない酵母は、島根県で偶然発見されました。
この酵母の遺伝子を調べることによって、たくさんの泡を出す酵母になる遺伝子が見つかったそうです 。そのことにより、泡の出ない酵母のみを純粋培養することに成功しました。
泡なし酵母の実現によって、 大半が高泡を出さない醪(もろみ)となっています。
泡なし酵母を使うことによって、タンクの9割近くまでもろみを入れられ、泡番の必要もなく、発酵が終わったタンクの洗浄作業もやりやすいというメリットがあります。
また泡なし酵母は大量の泡を出さない点を除けばその他の酵母と変わらない能力を持っているので広く使われることになったのです。
現在では、全ての種類のきょうかい酵母で泡を出さない酵母を使用することができるので、全て蔵元の7割から8割が泡なし酵母を使用しているそうです。
まとめ
以上、日本酒の仕込みについてお話しでした。
醪(もろみ)の仕込みが終わったら、ついに日本酒の完成させる「上槽」の行程に移ります。